2011年県展受賞作品


第61回(2011年)埼玉県美術展覧会受賞作品と審査評

ページの先頭へ第1部「日本画」

運営委員・審査員 亀山祐介(かめやまゆうすけ)
第61回埼玉県展の審査が終了した今、自分の心に問いかけた時、反省、憤り、納得(?)等の言葉が浮かんできます。8人の審査員が集い、個々の心と眼で審査する訳で、全て納得のいく結果になるとは思えませんが、お互いに絵を描き、埼玉県展をより良くという一致した目標を抱いているのでしたら、くすみのない心で行動する事が必要ですし、そうすることが、絵描きとしての自分自身の作品制作上、また、一人の人間として生きていく上で、重要な事であると思います。
今回の受賞作には例年と違い、人物画が全く選ばれておりません。勿論、画中には「人」の「気配」や、「匂い」がありますが、具体的な形では登場していません。これは、意図して選んだ訳ではなく、投票の結果、自然にこうした結果となりました。また、従来よりも薄塗りの作品が多く撰ばれている事も、今回の特徴であると思います。表現されたものが全てですから、厚塗り、薄塗りに拘る必要はありませんが、画面上にプラスしていくだけではなく、マイナスの部分があっても良いと思いますし、絵の具も、使用する粒子について考える事が必要です。また、表現したい気持ちがあっても、余りにもデッサンが出来ていないと、観る側には伝わりません。選外になった作品、入選した作品にも、この様な物が多数ありました。特に、人物画は、顕著に表れますが、静物画、風景画、抽象画であっても、より良いコンポジションを求め、形に関しては、過信せず、飽く迄自分の描いた線を疑って掛かり、出来るだけ良い形がとれるよう、努力して欲しいと思います。そして、一作一作、一歩ずつ、階段を登って行きましょう。

■埼玉県知事賞

※受賞作品をクリックしますと拡大画像が表示されます。
「冬めく」
森下博子(もりしたひろこ)
冬めく
揉み紙を用い、紙の地を生かした落ち着いた色調の作品です。強く、声高に自己主張している訳では有りませんが、静かに染み入ってくる佳作です。犬の切ない表情と、立ち枯れつつある紫陽花が冬の訪れをとてもよく表現していると思います。

■埼玉県議会議長賞

「やしきもり」
青鹿未奈(あおかみな)
やしきもり
深い暗闇の中に浮かび上がる木々の中に、見え隠れする一軒の民家。どの様な人が生活をしているのか、または廃屋なのか。色々な想像をかきたたせてくれる作品です。木立の緑色と月の金箔が美しいハーモニーを奏でています。

■埼玉県教育委員会賞

「流れ雲」
江川直也(えがわなおや)
流れ雲
画面全体に青い空とそこに浮かぶ雲が描かれ、右端の鉄線描で描かれた高圧線と鉄塔、ほのかな黄色い明かりがポイントになっています。すっきりした絵造りで、上手く爽やかにまとまっていますが、次回は、是非、画面上で試行錯誤した作品もみせて欲しいと思います。

■埼玉県美術家協会賞

「晴れの日」
尾藤日出子(びとうひでこ)
今回の受賞作品の中では、唯一カラフルな作品です。ダリアや蘭などの花々を、とても丁寧に真面目に描写して好感が持てます。時計、花バサミ、水差しと、小道具が多いので、もう少し画面を整理されると、より花が引き立つのではないでしょうか。

■埼玉県美術家協会賞

「棚田追想」
中谷小雪(なかやこゆき)
秋の棚田の夕暮れでしょうか。紅葉した樹木の葉と小さな家屋、日に反射する水の表現に使われた銀箔がとても効果的です。どちらの風景でしょうか。棚田は、いつか私自身が描いてみたいと思っていた事もありますが、作者に話を伺いたくなる、そういった作品です。

■NHKさいたま放送局賞

「陽が落ちる前に」
羽根田亜子(はねだあこ)
日が暮れる前に、自転車で家に帰ろう、という心情を描いたのでしょうか。 自転車とその影がデッサン的に表現されています。高校生の作という事ですが、完成度のある作品です。ただ、この表現方法が全てではありません。勿論、良い作品であったが為の受賞ですが、此処に留まらず、これから多いに悩み、次の作品では別のドアを開け、全く違った自分を見つけ、さらに観る者を感動させて下さい。

■埼玉県美術家協会会長賞

「献華」
河原進(かわはらすすむ)
画面の上半分に白い花が、下半分には色のある花が描かれた背景の前に、さらに白い花が描かれた仏画的な雰囲気を持った作品です。とても丁寧な作画で好感が持て、完成度も高いと思います。次回、どの様な「作品」を拝見できますか、とても楽しみです。

■高田誠記念賞

「想」
伊佐見育代(いさみいくよ)
受賞の常連といった感のある作者の作品です。大きな籠に入った椿の前に、一頭のアルパカでしょうか、背後に首を向け、けだるそうに座っています。 ハーフ・トーンで統一された画面は、とても心地良く感じられます。他の方の作品であれば、これでOKと言えますが、敢て言わせて頂きますと、次作は、是非冒険をし、異なる御自分を発見していただけたら、と思います。

ページの先頭へ第2部「洋画」

審査主任 吉田武功(よしだたけのり)
第61回県展・洋画部の応募数は1,475点、入選は538点で、36.5%の厳選でした。
審査は、1審2審3審と各審査員の判断を大切に、公平な眼で選びました。
出品作品は、過去のものと比べレベルの向上を感じました。写生画が多数でしたが、自己表現、モチーフ、色彩等において、何か主張する表現のある作品が入選したと思います。
入賞作品についても、挙手、投票、そして話し合いを繰り返す中で、知事賞をはじめとする各賞を選びました。受賞された方々の今後の活躍を期待いたします。
また、選に漏れた作品の中には、表現力が今少しあったならばと思う作品が多くありました。次回の出品に期待いたしております。

■埼玉県知事賞

※受賞作品をクリックしますと拡大画像が表示されます。
「水の記憶・祈りⅡ」
遠藤マサ(えんどうまさ)
水の記憶・祈りⅡ
流れる明暗からなる大胆な構図と透明感溢れた色彩の中に、静かに過ぎていく時間を感じる作品である。優しく微笑みを湛えた水の精は、何を思い、何を祈っているのだろうか。

■埼玉県議会議長賞

「D‐GIN・カオン」
醍醐イサム(だいごいさむ)
D‐GIN・カオン
黒一色による紙の上での現代的な密度のある表現だ。日本人としての美意識や日本的絵画の有様を十分提示してくれている作品であり、県展受賞作として中身の濃い模範的な作品であった。
今後を大きく期待できる大型新人である。

■埼玉県教育委員会賞

「美里の雪」
菅野公夫(すがのきみお)
美里の雪
作家の住み慣れた身辺の雪景を、雪解け前のわずかな時間帯でとらえている。畑地を台地の雪をモノクローム調で表現している。民家の屋根の雪と畑地の雪の対比が画面を引き締めている。

■埼玉県美術家協会賞

「アルモニオーソ」
横尾正夫(よこおまさお)
描きなれた楽人二人の構成を恵まれた表現力で迷いない筆致で表現されている。立っている楽人は画面左側を見つめ、座す楽人は手前の楽譜に目を注いでいる。視線がおだやかに画面の動きを手助けしている。楽人の衣装にも、白と赤の舞台衣装で緊張感を持たせている。細心の配慮である。

■埼玉県美術家協会賞

「卓上のハーモニー」
後藤良子(ごとうりょうこ)
造形性に優れた作家の感性がうかがえる作品である。素直で感性あふれた構成と、意図的な形態のとらえ方に作者の表現への意思がいかんなく発揮されている。ブルーを基調とした色調も効果的である。

■埼玉県美術家協会賞

「室内」
𠮷住裕美(よしずみひろみ)
卓越した色彩の調和がとれた作品である。穏やかな、おおらかで暖か味にあふれた作家の心情が伝わってくる。見事にその味わいが表現されている。

■埼玉県美術家協会賞

「Five Squares」
佐藤伸二(さとうしんじ)
日常の生活の中にテーマを求め、構成で意図的に階調を強調することで、生活の時間を表わし、現代的な新しい作品を表現するよう試みている。

■さいたま市長賞

「湖上清風」
石井百合子(いしいゆりこ)
この作品は、宮沢湖(飯能市)を描いたものである。湖上の風が止まって、澄んだ空気が流れる。穏やかに太陽の光を映す水面、魚を待つ釣り人、静かで落ち着いた景色は、女性らしい表現で描かれており、美しい作品である。

■さいたま市議会議長賞

「貝のある静物」
島嵜徳司(しまざきとくじ)
画面構成は、水平線を中心よりやや下に引き、それにそって枯れた向日葵を置き、縦の構成として、ブドウ酒の瓶やグラスを置き、赤い布の上に主役の白い貝や果物を置き、変化と統一のある生き生きとした生命感あふれる作品である。

■さいたま市教育委員会賞

「刻を越えて(Ⅱ)」
戸張信彦(とばりのぶひこ)
醬油缶のような、使い終えた缶をうまく構成され、二つの缶の空いている所が特に効果的に絵画化され質感もよく出ている。色調がグレーで統一されており落ち着いて見られる、すばらしい統一感のある作品である。

■読売新聞社賞

「懐郷の詩」
髙橋孝(たかはしたかし)
樹間を吹き抜ける爽風が季節を運んでくる。森がやがて来る秋の衣裳をまとい始めた瞬間を明るい色調でとらえている。林間の黄葉が画面にバランスをよく配され清々しい作品である。

■テレビ埼玉賞

「星川にて」
萩原達男(はぎわらたつお)
左手前の樹木が少し強いと思われるが、ふだん親しんでいる風景をしっかりと捉えている。ていねいな一つ一つの表現に、作者の誠実な生活姿勢が感じられる作品である。

■東京新聞賞

「溢流」
近藤リナ(こんどうりな)
シュールレアリズム的な表現は県展出品作の中では数少なく、貴重な作家の出現である。画面中央に配した「お面」を軸に画面全体を美しくまとめている佳作である。表面的でない作家の心の奥にある何かを表出しようと格闘している姿勢に好感が持てる。

■埼玉新聞社賞

「レクイエム」
諏佐英和(すさひでかづ)
画面の人物は、大切な人を失ったのであろうか。作者の深い悲しみを清澄で格調高く表現し、観る人に深い感動を与える作品である。

■時事通信社賞

「ミモザと庭」
浜島義雄(はましまよしお)
背景に少し工夫が欲しいが、中間色が効果的に組み合わされている。さわやかな風が流れている室内がよく表現されている。現代社会の複雑であわただしい生活に一服の清涼剤となる作品である。

■FM NACK5賞

「道」
藤崎雅碩(ふじさきまさひろ)
色彩に少しメリハリがほしいところであるが、奥深い森に向かう山道が豊かな優しい気持ちで描かれている。ソフトな色彩の中に奥深く強いものを感じる作品である。

■埼玉県美術家協会会長賞

「ポットホール」
長谷川貞夫(はせがわさだお)
新鮮で若々しい表現(スーパーレアリズム)に挑戦している貴重な作品だ。スーパーレアリズムは、1960年代以後、アメリカで生まれた表現で超写実主義ともいわれた。最近では、若い世代で新写実主義が話題になっているが、県展作品の中でもより現代を感じる透明感のあるさわやかな作品である。

■高田誠記念賞

「林檎」
柳田伸郎(やなぎだしんろう)
色調を抑えた空間に林檎4個を配した構成である。その中の1個の林檎がグリーンで、画面周囲にも気を配るなどの重厚な表現で、高田誠記念賞にふさわしく美しい作品である。

ページの先頭へ第3部「彫刻」

審査主任 中島睦雄(なかじまむつお)
先の大災害によって、展覧会そのものを中止せざるを得なかったという例もありましたが、第61回県展は、予定通り実施のはこびとなり、幸いなことだと思います。
彫刻部に於いても、そのような関係から、出品点数が心配されましたが、大きな減数はありませんでした。
出品された作品は、2メートルを越す大作から小品まで、また、表現材料も、ステンレスや銅などの金属、石、FRPや石膏、テラコッタなどの粘土その他と、多様なものがみられます。技法の上からも、いろいろなテクニックのものがみられ、変化に富んだ作品から、作者の意欲や意思が伝わってきて、見ごたえのあるものとなったように思います。
なお、若い人の意欲作が多数みられたことも、喜ばしいことと思います。

■埼玉県知事賞

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「掴わしめ」
本庄絵梨子(ほんじょうえりこ)
掴わしめ
鍛金の作品で、指で狐の影絵のような形をうまく造型しています。指先からしっぽに至る螺旋の形がおもしろく、現代性やユーモアのある優れた作品です。

■埼玉県議会議長賞

「おんな」
渡部友美絵(わたなべゆみえ)
おんな
この作品は、量感の表現が主となっていて、一見すると力強い量感ですが、全体の流れるようなフォルムによってわずかに動きをみせています。繊細な神経で仕上げていますが、細部にこだわることなく内面性がこめられた作品です。

■埼玉県教育委員会賞

「夕陽山岳」
長谷川大祐(はせがわだいすけ)
夕陽山岳
銅板による鍛造作品です。全体的にボリュームがありますが、それでいて軽快な感じです。作品の内側からの力が、凸面と凹面を使って、大変感じよく対比されています。

■埼玉県美術家協会賞

「風青し」
栄 麻由美(さかえまゆみ)
若々しい女性像。優れた具象作品で、非常にさわやかな感じが印象的です。作者も若いし、将来に期待が持たれます。

■埼玉県美術家協会賞

「月隠り」
磯 美夏子(いそみかこ)
具象作品ですが、単純化された全体のフォルムが、なかなかおもしろい作品です。テラコッタ特有の、暖かい感じがあふれています。作者の愛情が伝わってきます。

■朝日新聞社賞

「おっとっと」
田島一(たじまはじめ)
ステンレスを使った作品。子供が犬をひいている、いや、犬に子供がひっぱられているのかも知れない。楽しい作品です。ステンレスという素材をうまく使っており、ユーモラスな感じをよく表現しています。

■埼玉県美術家協会会長賞

「海によせて」
長谷川倫子(はせがわみちこ)
小品ですが洗練された作品です。衣服や頭の上にかかるウェーブで、海の波を彷彿とさせるようです。静かに海の波音を聞いている様子がうかがえます。

■高田誠記念賞

「きらめき・コラボひまわり」
瀧口健治(たきぐちけんじ)
子供たちの仲間である動物たちが、作品に楽しく盛りこまれています。子供たちの顔も、明るい日差しをあびて嬉しそうです。それを一人の女性が見守っており、その女性の子供たちに対する愛情がよく表現された作品です。

ページの先頭へ第4部「工芸」

審査主任 松木光治(まつきこうじ)
新たなスタートとなる第61回展。工芸の応募総数は341点で、昨年と比較しますと、会員からの応募はほぼ同数ですが、一般から40点余り減少となりました。審査は、例年通りに見直しを繰り返し、高校生をはじめとして、幅広い世代の瑞々しい発想と技術力、意匠から179点を選出しました。今回、長い経験を認めつつ、結果として選外になった作品があります。一方、高校生の作品が賞候補として挙がりました。造形への情熱が魅力ある作品づくりに反映していたかという差異によるものです。
埼玉県展工芸の魅力のひとつは、個展や様々な展覧会出品を経験している方々の作品が、同じ会場に集うということにあります。表現意図や造形方法など異なりますが、大きな工芸という器をのぞき込んで、素材美を創り出す技術・技法、意匠、そして作品が発するエネルギーを感じとっていただきたいと思います。

■埼玉県知事賞

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「想い」
荒舩絹子(あらふねきぬこ)
想い
顔の表情が観る人の心を魅了し、細部に渡って木目込み技法の手際の良さが伺われる佳品です。清楚で美しく作者の豊かな感性が表れています。
全体にバランスがとれ、人形を中心とした周りの空間にも清々しさを漂わせ、特に顔からつま先に至る体の形態が、実に美しい線でまとめ上げられています。

■埼玉県議会議長賞

「森の息吹」
遠山和子(とおやまかずこ)
森の息吹
画面中央の立体の端正なフォルムが、安定感と流動感を与えています。
裏皮の持つ質感を素直に用いて、素材の特徴、良さを十分に引き出しています。
画面と額装のバランス、額の金の分量、緑青色に染めた画面中央のバック、茶色の落ち着いた色調が余情を漂わせ、品格のある秀作です。

■埼玉県教育委員会賞

「流線文皿」
松永慶(まつながけい)
流線文皿
確かなロクロ技術に裏付けられた作品です。堂々とした口反り大皿の器胎にマット調の黒釉を施し、グレーの線紋地肌と白釉と赤色の流線紋を効果的に描き、現代的な爽快感の漂う秀作です。

■埼玉県美術家協会賞

桜染浮織「ふたゝびの春へ」
玉造諄子(たまつくりじゅんこ)
緯絣りの浮織りで裾模様を表現し、桜染めの地色を引き立てています。
糸染めから織り上がるまでの想いが伝わってくるような、穏やかな表情の着物に仕上がっています。

■埼玉県美術家協会賞

「彩偶晶器」
森田高正(もりたたかまさ)
手びねり技法による造形作品です。土の持つ性質を生かした有機的なフォルムと機能性を意識した口作りの構成が見事にマッチしています。
また、表面のシャープな切れ込みが作品を一層際立たせています。
作者の凛とした力強さが伝わってくる秀作で、今後も意欲的な作品を期待しています。

■埼玉県美術家協会賞

「あさつゆ」
能勢恵子(のせけいこ)
紬地に正統派の友禅染めによる作品です。瑞々しい感性が伸びやかに展開されている佳品で、柔らかな色調が大胆な構図を支え、黒の使い方が処を得て画面に緊張感を与えています。染めの良さが見る側に語りかけてくるような安心感を覚えます。

■NHKさいたま放送局賞

「タモ拭漆盆」
田中義夫(たなかよしお)
直径33cm高さ5cmのタモ材の挽物の盆です。強い木目をサビ止めし、拭漆の手法で漆を塗って杢の美しさを引き立てています。厚みも程良く、使い勝手の良い盆になっていて、バランスのとれた秀作です。

■埼玉県美術家協会会長賞

「線条紋壺」
有川眞澄(ありかわますみ)
彩泥という技法から成る作品です。
しっかりとした大壺成形後、生乾きの陶土の上に2種類の泥状の土を用意し、まず薄目の泥土を決めた所にガン吹きし、乾燥後テープでマスキング線紋を施し、その上に濃い泥土を二重に吹き付けて作品としています。
氏の今までの線条紋パターンから一歩踏み出した新鮮で魅力ある作品となっています。
現代の空間にマッチした壺です。

■高田誠記念賞

「厳島組三分紐」
亀井三枝子(かめいみえこ)
伝統ある組紐の中でも由緒ある厳島組。それを裏打ちも一緒に組み込み、帯締めとして仕上げています。作者の感性と熟練した技術から創られた優れた作品です。

ページの先頭へ第5部「書」

審査主任 町田玄洞(まちだげんどう)
東日本大震災の発生で開催が危ぶまれた61回展が、無事開催されたことは真に喜ばしいことです。
この震災で懸念された出品数ですが、公募542点は前回展とほぼ同数で、一先ず胸を撫で下ろしたといったところです。
県展の厳しさは既に周知の通りでありますが、挙手による鑑査を重ねる段階で現実に直面したとの印象を強くしております。他に対して何か光る部分を備えていなければ勝ち残れない、これが審査を担当しての感想です。
入賞作品の選定に当たっては、やはり誤字脱字の問題で作柄が良好な作品を外さざるを得なかったのは残念なことです。心して作品創作に当たって頂きたいと思います。
以下の短評は審査員が分担し、最後に文の調子を揃えて纏めたものです。参考として頂ければ幸いです。

■埼玉県知事賞

※受賞作品をクリックしますと拡大画像が表示されます。
「張祜詩」(ちょうこし)
奥富霞村(おくとみかそん)
張祜詩
二十八文字(七言絶句)で、尚かつ重字(同字の重なりに繰り返し記号を使う)が三箇所出てくる詩を題材としているにも拘わらず、寂しさを感じさせない。単純化した筆線を用いながら、肥痩の配分に繊細な感性が働いている結果なのであろう。文字形の安定性と充実した線質によって作品の存在感を高めている。

■埼玉県議会議長賞

「李商隠詩」(りしょういんし)
田端香峰(たばたこうほう)
李商隠詩
五十六文字(七言律詩)を三行に畳み込む力量は永年の鍛錬によるものであろうか。文字大小、字幅変化を強調させる筆の横振幅の大きさが、行間余白のうねりを増長させて止まるところを知らない。それにしても、最終行の字数を一、二行より多くする発想には驚かされる。

■埼玉県教育委員会賞

「杜甫詩」
平岡玲篁(ひらおかれいこう)
杜甫詩
隷書の中でも古隷といわれる区分に入るであろうが、そこに木簡的な風韻も加味されて独特の作風としている。文字形を平たい矩形に構成したことも素朴さをより強調する上で効果的に働いている。一番の強味となる厚みのある書線による組み立てが、作品に立体感を与えている。

■埼玉県美術家協会賞

「湘夫人祠」
吉野麗香(よしのれいか)
濃墨作品は筆線と余白とが対照的な関係となり、くっきりと文字が浮き上がる、或いは盛り上がるような気分を伴って力強さを訴えてくるものである。これに加え、この作品はひねりの利いた筆がリズムに乗って迫ってくるのが特徴で、潤渇の変化も適度に余裕を示した表現としている。

■埼玉県美術家協会賞

「與天地同壽」(てんちとじゅをおなじうす)
柳澤玉暎(やなぎさわぎょくえい)
印文「與天地同壽」出典(楚辭)を古の丸い印形に金文文字を使用し、粗密や字形を生かしつつ余白を右下方に多く配するなど、巧みな布置を呈している。動きのある字形でありながら全体的には安定感を感じさせる堂々とした作品である。側款の切れも良くリズミカルで楽しさを感じる。

■埼玉県美術家協会賞

「梅の花」
石塚秀石(いしづかしゅうせき)
“吹く風”、“梅の花”部分を効果的に表現し、簡単そうで難しい二行書きを、書線の表情と余白を生かした大胆な作品としている。古歌にマッチした料紙選びも功を奏し、終末を大胆な潤筆にしたことで存在感溢れる作品に仕上げている。

■さいたま市長賞

「杜牧詩」
樋口澄風(ひぐちちょうふう)
杜牧詩(江南春)を淡墨で伸びやかに仕上げている。字数が二十八字と少なめのため、線に余程漲力がないと弱いものになる恐れがある。この作品は筆力、構成が首尾一貫し、線の清澄さに眼を洗われるような感覚を与える作品にしている。

■さいたま市議会議長賞

「蛍」
井上紘子(いのうえひろこ)
練度を経た一本の線、造形、そして作品全体に流れる情感が程よく調和した表現となっている。和歌と俳句とを効果的な渇筆を配して、控え目な筆致にのせることで清楚な作品を生み出している。作者の息吹が伝わってくるかの想いがする。

■共同通信社賞

「劉基詩」(りゅうきし)
根岸春蕙(ねぎししゅんけい)
瓦當箋を2分の1にし、中心を空けた二幅の配列が効果的。運筆が流動的で、無理のない素直な筆致に好感を覚える。縦画に変化を持たせ、軽快なリズムで仕上げた作は、気負いを微塵も感じさせない。

■埼玉新聞社賞

「秦道然詩」(しんどうぜんし)
大澤美峡(おおさわびきょう)
緊張感の中に重厚さを持ち合わせた、気力充実の堂々たる作。潤渇も巧みで筆脈大きく筆勢雄大でもある。文字の中心をしっかり捉え、行間にゆとりを持たせることで練度の高い迫力のあるものに仕上げている。

■埼玉県美術家協会会長賞

「林逋詩」(りんほし)
奈良紅雨(ならこうう)
七言二句を力強く、伸びやかに表現して痛快な作。墨量は比較的多めだが、重苦しさを感じさせないところが良い。全体に大きな振幅を保ちながら、小気味良く転変する大小、長短の多彩なリズムに見る者が圧倒されるような迫力がある。息の長さ、大らかさは出色だ。

■高田誠記念賞

「万葉集のうた」
秋山華風(あきやまかふう)
万葉のうた九首を穏やかな作風でしっとりと書き上げた。霞立つ … と万葉時代の春の情景を彷彿とさせる構成で、多様な線条と微妙な墨色を意識して、横へ展開する行の響き合いが情緒あふれる美しい作品とした。

ページの先頭へ第6部「写真」

審査主任 林 喜一(はやしよしかず)
3月11日に起きた東日本大震災は、日本国内のみならず世界中を驚かせました。その後の計画停電等により第61回県展が行われるか、危ぶまれていたのですが、催行出来ることになり内心ほっとしていたところです。このような環境にもかかわらず、写真の応募数は昨年を上回り関係者として大変嬉しく思っています。
今年の傾向としては、17歳の高校生から90歳を超える人まで年齢の幅が広くなりました。更にデジタル写真の画質向上により、初めてカメラ付き携帯電話で撮影した作品が入選する等、様々な作品が寄せられました。
審査は1,307点の作品を3日間に渡り何度も目を通し、最後は9人の審査員の合意により幅広い分野から厳正かつ公平に入選入賞作品を決定しました。
次回展も幅広い分野からの独創性豊かな作品をお待ちしております。

■埼玉県知事賞

※受賞作品をクリックしますと拡大画像が表示されます。
「母子」
大石雪枝(おおいしゆきえ)
母子
優しさあふれるように母子の慈愛がよく伝わって来ます。赤ちゃんの安心顔がほっとするような柔らかな表現になっていて、女性らしい被写体への接近を感じました。

■埼玉県議会議長賞

「これより先は運休となりました」
日吉直(ひよしすぐる)
これより先は運休となりました
一枚一枚がしっかりした切り口ですばらしい構成になっています。それを組写真としてまとめたことにより大きな力になり、タイトルにピッタリの内容になりました。モノトーン調で冷たさを感じさせながら、信号の赤が効果的に画面を盛り上げています。

■埼玉県教育委員会賞

「星夜」
新井房子(あらいふさこ)
星夜
過去の風景写真から逸脱したような新しい描写で一つの風景を見せてくれました。デジタルならではの利点をよく理解して、自然光と照明とのミックス光で作り上げ、微妙な色合いで美しい作品にしています。

■埼玉県美術家協会賞

「故郷の秋」
前田稔(まえだみのる)
日本の田舎風景を優しい情感あふれるタッチでまとめています。4枚の組写真の中に人物を1枚だけに登場させてポイントを作り、懐かしい故郷をおふくろの味的な物語で綴ってくれました。

■埼玉県美術家協会賞

「静寂」
広澤清(ひろさわきよし)
かすかに周りが写る時間を選んで切り撮った、美しい作品と言えます。写真でしか表現出来ない夜を、確固たる技術により、心地良くまとめています。画面の隅々まで作者の気持ちが行き届いているようです。

■埼玉県美術家協会賞

「空蝉」(うつせみ)
斉藤榮一(さいとうえいいち)
3枚写真を何の脈絡もないようにまとめ上げた、作者の心象的な組写真と言えます。真ん中の花一輪をポイントにして心の内面を、左右写真で補い、お互いの写真が響き合うように上手くまとめてくれました。

■埼玉県美術家協会賞

「デュエット」
荒井文治(あらいふみはる)
難しい撮影条件下に於いて、余分なことに神経を使わずに被写体を直視して捉えた力作です。赤い実をついばむ鳥の動き、ツララ等がリアルに描写されています。背景を弱く落とす表現技術で、千載一遇の出会いを確実にものにしています。

■さいたま市長賞

「一息」
箕田勇(みのだいさむ)
少年の目力、こぼれ落ちる水の質感等、必要な所だけをダイナミックに見せています。ワンチャンスをものにした力強い作品と言えます。

■さいたま市教育委員会賞

「夜明け」
黒沢雍弘(くろさわやすひろ)
モノクロトーンの調子が良く、この環境にピッタリと合っています。遠くからこちらを伺っている鹿が白い霧の中に浮かんで見えるように、リアルに表現してくれました。

■産経新聞社賞

「静寂」
須田一雄(すだかずお)
風の音すら聞こえないようにテーマ通りの静寂を怪しい程に美しく見せてくれました。構図を崩さないように、花のポイントがしっかりしていて、背景のバランス等、画面処理が爽やかに感じます。

■日本経済新聞社賞

「大笑い」
川村勝己(かわむらかつみ)
まるで大笑いしているように子供達の群団を擬態化していることにより、唇にも見え、白いTシャツは歯のようにも見えます。ユーモアを感じさせるような作品になりました。

■毎日新聞社賞

「家」
前田拳三(まえだけんぞう)
どこの家にもあるような部屋の中を、若い人らしい新鮮な切り口でしっかりと見せています。ふと目を止めると、それぞれの物が生活の中で生きていることに気付くように日常をさらりと捉え、平凡な暮しを上手にまとめてくれました。

■埼玉県美術家協会会長賞

「村が近い」
新藤邦泰(しんとうくにやす)
立体映像的に大地を人と光と影を強調していて印象的な作品にしています。新しい道が発展途上国の雰囲気を漂わせています。

■高田誠記念賞

「チャスパルバの祈り」
斎田和夫(さいたかずお)
赤とブルーの反対色でバランス良くまとめ、またシンメトリーにしたことで作品的な味付けになっています。祈りの作法の中に、淋しそうな目が印象的になっています。作者の高い感性が光っていました。